アーケード商店街、狐の嫁入り
青空も見えているのにぽつぽつと水滴が顔に当たるなあと悠長に歩いていたら
アーケード商店街を目前のところで突如として土砂降りになり
周囲のみなが一目散に駆け込んだ
一歩遅れて私も続く
大の大人が一斉に走り出す貴重な瞬間に立ち会った
雨はそして商店街を抜ける直前に止んだ
カバンの奥底から引っ張り出された折り畳み傘は
手の中で折り畳まれたまま役目を失った
ほんの5分間ほどで路面は立派にずぶ濡れていた
が、空はけろっと晴れていた
狐につままれたようだ
果たしてこの一瞬で無事に嫁入りできただろうか
髪と肩とをしっとりさせて電車に乗り込む
汗ほど不快でなく、火照った身体が冷えていく
車窓には、雨なんてなかったような青空に
入道雲がむくむくと立ち上がっていた
夏だ
取り立てて大きな出来事という訳でもないのに
この日のことは、妙に記憶に残るだろうと思った
はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」