朝の電車
東京の朝の電車には、
人と、一人ひとりの殺意とが
めいっぱいに詰まっている。
出社する憂鬱、ヒールのかかとの痛み、
咳をするのにマスクをつけていない前の人、
朝なのに理解できない体臭、二日酔いの頭痛、
まだ満員でないのに完全にもたれかかってくる人、
空いているスペースがあるのに頑なに詰めようとしない人、
背中に突き刺さったカバン、
シャカシャカとイヤホンから音漏れ、
足を伝う、隣の人のビニール傘の水滴。
全ての負の気持ちが殺意に変換されて、朝の電車にぎゅうぎゅうに詰まっている。
先週の朝の電車。
カップルが仲良さげにしゃべっている。
朝から楽しそうで、それは別にいいけど。
男は女を人々から守ろうとしているのか、
女の周囲の空間をあけて、それを囲う形で立っている。この混雑した車内で。貴重な空間を。
その男の肘がするどく私のわき腹に突き刺さっている。
腑に落ちない。
極め付け。
ノイズキャンセルされた
イヤホンの曲と曲のすきまに聞こえた会話が、
「フェスとか行きたいな」
「行きたい〜!」
だったので最悪だ。最悪の朝のはじまりだ。